まるで魔法のようだった。
職人の素早い手技で、水面の模様は次々と姿を変えていった。
そして、最後には、ゆっくりおろされた紙にその美しい姿を現した。
「私もつくりたい!」
マーブル紙の虜となった私は、それから3年後、ようやく念願の弟子入りが叶い、フィレンツェの工房にいた。
そこで、師匠のもと貪欲にマーブル紙の基本技法習得に励む。
修業先のイタリアのマーブル紙は、配色がヴィヴィッド。
それも美しいけれど、私はやはり淡くて優しい色合いが好き。
「淡い色使いのジャポネーゼ」と苦笑されながらも、頑なに自分の理想の色合わせを模索する日々。
ヨーロッパの色を知れば知るほど、自分が和の色使いに惹かれていることに気づいた。
襖や障子のある日常生活、幼い頃から習い続けた書道に、無意識のうち影響されていたのかもしれない。
白地に白模様、一見何も見えないのに、光の移ろいで突如としてその姿を現す、
そんな粋で上品な日本の唐紙のようなマーブル紙を作りたい。
全く新たな道への挑戦。師匠を巻き込んでの試行錯誤が始まった。今度は「見えないマーブル紙のジャポネーゼ」と言われながら。
そして、ついに師匠も認める自分の理想のマーブル紙が完成する。
愛おしくてたまらない…、ずっと見ていたい!
それで、思わず日本の自室の襖にこの「白×白のマーブル紙」を貼ってしまった。いつも眺めていたかったから。
朝に夕に、眺めてはうっとりする毎日。眺めていると嫌なことも忘れる。
それからというもの、通勤時のパスケースに始まり、名刺入れ、仕事で使うファイル…、何から何まで自作のお気に入りマーブル紙だらけに。
大好きなマーブル紙と少しでも長く一緒に居たくて。
マーブル紙との出会いで、私の人生は一転した。
その後の有給休暇はすべて、イタリアへのあしかけ10年以上の通い修行に消え、遂には20年余り勤めた仕事も辞め、自らのマーブル紙工房を開くに至ったのだから。
マーブル紙作家 杉浦 綾
1997 | 早稲田大学法学部卒業 |
2000 | 旅先のイタリアでマーブル紙に出会う |
2006 | フィレンツェの職人工房で、 マーブル紙修行開始 (Omero Benvenuti氏に師事) |
2016 | 京都造形藝術大学 情報デザインコース卒業 (現/京都芸術大学) |
2018〜 2019 |
藝術学舎(京都)で講師を務める「美しいマーブル紙の世界」 |
2020 | 愛知県岡崎市に自らのマーブル紙工房「Bottega di Aya」を開設 |
現在も定期的に渡伊し、師匠のもと研鑽を積む | |
2022 |
岡崎市にて個展開催「暮らしを彩るマーブル紙」(3/9~13 岡崎市旧本多忠次邸) |
名古屋市にて個展開催「彩り」(6/25~7/11 ギャラリーMenio /メニコンANNEX10周年記念イベント) |
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2023 |
岡崎市にて個展開催「暮らしを彩るマーブル紙Ⅱ」(7/14~17 岡崎市旧本多忠次邸) |
2023 |
名古屋市にて個展「彩りⅡ」(11/22~26 ギャラリーMenio) |
*著書「イタリア小さな食の美術館」(2008年/中日出版社)